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能の世界的な影響
能とイェイツの出会い、そしてそこから生まれた劇作品『鷹の井戸』はその後の20世紀のアートに大きな影響を与えていくことになります。『鷹の井戸』の制作には、エズラ・パウンド、エドマンド・デュラック、伊藤道郎などといった、20世紀のアートを牽引していくアーティスト達が多く関わっていました。
イェイツと同じアイルランド人作家サミュエル・ベケットのポスト・モダニズムの傑作とされる『ゴドーを待ちながら』も、『鷹の井戸』や能との類似性を指摘されることがあり、モダニズムを代表する詩人T.S.エリオットもまた『鷹の井戸』を見て、以下のように述べています。
「私は、パウンドに連れられて行ったのであるが、ロンドンのある客間で、日本人の高名な舞踏家が鷹の役を演じた、あの『鷹の井戸』の初演の印象をはっきりと憶えている。そしてイェイツを、先輩詩人としてではなくて、すぐれた同時代人として見るようになったのはその後のことであった。」(※)
また、20世紀を代表する演出家、ロバート・ウィルソンやピーター・ブルックも能からの影響を公言しています。
美術の世界で、浮世絵がモネやゴッホら印象派に影響を与えていたように、西洋の舞台芸術の世界でも日本の能が大きな影響を与えていたのです。
※
長谷川年光「イェイツと能とモダニズム」 (ユー・シー・プランニング、1995)
Frank Kermode, "Poet and Dancer before Diaghilev", Modern Essays (London : Fontana Books, 1971)
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◆エズラ・パウンド(Ezra Weston Loomis Pound, 1885 - 1972)
20世紀初頭の詩のモダニズム運動の中心人物のひとり。当時イェイツの秘書を務め、フェノロサの手稿をイェイツに渡し、イェイツが能に興味を持つきっかけを作った。
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◆エドマンド・デュラック(Edmund Dulac,1882 - 1953)
「挿絵の黄金時代」にイギリスで活躍したフランス出身の挿絵画家。『鷹の井戸』の美術・衣装デザイン・作曲・挿絵を担当。
◆伊藤道郎(いとう みちお、1893 - 1961)
『鷹の井戸』で、鷹役を演じた日本人ダンサー兼振付師。イェイツと共に能を研究し、『鷹の井戸』の完成に貢献した。『鷹の井戸』完成以降はニューヨークに渡ってスタジオを開き、のちにブロードウェイ・ミュージカルの振り付けなども担当。
1939年に日本に帰国し、九段会館にて『鷹の井戸』を上演した。
◆サミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906 - 1989)
アイルランド出身のフランスの劇作家、小説家、詩人。不条理演劇を代表する作家の一人であり、小説においても20世紀の重要作家の一人とされる。1969年ノーベル文学賞受賞。
◆T.S エリオット(Thomas Stearns Eliot, 1888 - 1965)
イギリス出身、エズラ・パウンドと並ぶ20世紀モダニズムを代表する詩人、劇作家、文芸批評家。1948年ノーベル文学賞受賞。
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