識るケルト
るケルト

ケルトの歴史ケルトの分布ケルトの思想ケルト神話




【ケルト神話】

~古代から今日まで、ファンタジーの源泉~



ケルトは古代より口承で独自の自然信仰や神話を語り継いできました。それが文字となって書き残されるのは中世に入ってからですが、キリスト教以前の、ギリシア神話とも異なる神話はその後のヨーロッパの様々な逸話に多大な影響を与え続けています。
その幻想的でロマン溢れる世界観は、特にファンタジーの分野で途切れることなく創作者のインスピレーションを掻き立て続けており、有名な「アーサー王物語」をはじめ、現代になってからもJ・R・R・トールキンの「指輪物語」、J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」、さらには日本のゲーム作品「ファイナル・ファンタジー」や「ドラゴン・クエスト」シリーズから近年の「Fate/Grand Order」(以下FGO)に至るまで様々なジャンルの作品に取り入れられ、今も人々のイマジネーションの源泉となっています。






ケルト神話の特徴


・とにかく神様が多い!

ケルトの自然信仰は日本の八百万の神と同じように、森羅万象に神が宿ると信じられていました。
その結果、各地に存在するケルト伝承の神々はざっと300以上!

・神様は絶対…じゃない?

現代のキリスト教や仏教、イスラム教などでは唯一神が絶対の存在ですが、ケルト神話の神々はとても人間臭く、親しみを覚えるキャラクターがたくさん。
人間と子供を作ったり、魚や虫に生まれ変わったり、人間と戦って負けてしまったり、地下に引きこもってそのまま妖精になってしまったり…現代の信仰では驚いてしまうような親しみやすさがケルトの神話にはあるのです。

・元ネタの宝庫

ケルトの神話や伝承には、のちの有名な逸話になった元ネタがたくさん!
円卓の騎士たちで有名なブリテン伝承の「アーサー王伝説」や、キリスト教の逸話とも融合していった「聖杯伝説」をはじめ、近年ブームとなったハロウィーンや、日本の能作品、そして現代のファンタジー作品に至るまで、そのルーツをケルトの伝承に求めることができます。




アイルランド神話


ケルト神話の中でも、もっとも有名なものがアイルランドに伝わる神話です。
途方もない壮大な時空を超えて語られる物語の数々はあまりに膨大で、まるでケルト文様のように収拾がつかないくらい入り組んでいますが、大きく分けて以下の4つのサイクル(物語群)に分類されます。

1. 起源なのに「天地創造」しない

神話物語群

前述の通りアイルランド神話は中世に書き起こされたため、キリスト教の影響があり、ノアの箱船で有名な大洪水から始まります。なので、すべての起源であるはずのこのサイクルには、他の神話では付きものの神が世界を創造する、いわゆる「天地創造」の部分がありません。洪水後、6つの部族が次々とアイルランドにやってきて、支配者が変わっていきます。そのうちもっとも有名なのが、「ダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)」という神々の部族で、最後にはゲール人の祖先である人間の部族、ミレー族に敗北し、地下や西の島ティル・ナ・ノーグに移り住み、妖精へとその存在を変えてしまいます。

2. 英雄クー・フーリンが大活躍!

アルスター物語群

アイルランド神話でももっとも人気のあるサイクル。アイルランド北部のアルスターの伝承がメインで、ケルトの英雄として有名なクー・フーリンが大活躍するのがこの物語群です。クー・フーリンは(1)神話物語群の太陽神ルーの息子ですが、母親は人間であるという半神半人。こうしてケルト神話では、人間と神が融合していき、その境界線が非常に曖昧になっていきます。
クー・フーリンの槍ゲイ・ボルグ、影の国の女王でクー・フーリンの師であるスカサハ、ライバルである女王メイヴ、カラスの姿をした戦争の女神モリガン(モルガン)など、FGOのモチーフにもなるキャラクターもここでたくさん登場します。

3. アーサー王と円卓の騎士の元ネタ?

フィン物語群

クー・フーリンと並ぶケルト神話の英雄フィン・マックールと、フィンが率いるフィアナ騎士団を中心とした物語です。智勇に秀でたフィンはもちろん、フィアナ騎士団にもフィンの息子オシーン(オシアン)、最強かつイケメンのディルムッド、隻眼のゴルなどキャラクターが豊富で、騎士道ロマンス的な側面が強いサイクルです。これがのちのアーサー王物語のベースになったと言われています。また、恋愛要素が多いのも特徴で、「ノイシュとディアドラ」「ディルムッドとグラーニャ」の悲恋物語が、有名な「トリスタンとイゾルデ」の元ネタと言われています。フィンも神族の血を引いていますが、この頃になると人間と神族、妖精などは普通に混在し、その血も混ざり合って共生している世界となっています。

4. 歴史とのつじつま合わせ?

歴史物語群

このサイクルでは、アイルランドに実在した歴代の王・君主たちの伝承が、神話と融合させられながら語られています。ここで、神話と史実の整合性をつけているのです。おそらくアイルランド神話の中ではもっとも人気のないサイクルかも…?




アーサー王伝説

ブリテンの伝説の王、アーサー・ペンドラゴンと円卓の騎士たちの活躍を描いた騎士道物語。ヨーロッパの様々な民間伝承を組み合わせて作られていますが、ベースとなったのはアイルランド神話のフィン・マックールとフィアナ騎士団の物語であると言われています。現在のもっともよく知られるアーサー王伝説は、14世紀にトマス・マロリーによってまとめられた『アーサー王の死』で、岩から引き抜かれる王の剣、聖剣エクスカリバー、魔術師マリーン、湖の騎士ランスロット、聖杯探索などなど、現在でもよく知られているイメージはここで作りあげられ、その後の様々なファンタジー作品に大きな影響を与えていくことになります。

アーサー王伝説における、アイルランド神話の名残

・ランスロットとグィネヴィアの不倫

アーサー王の妻グィネヴィアは、円卓の騎士でも最高の騎士ランスロットと恋に落ち、この不義の恋が発端となって、結果的に王国が崩壊しアーサー王の死を招くことになります。
これは、アイルランド神話でのフィアナ騎士団最強のディルムッドが、主君フィンのフィアンセであるグラーニャと駆け落ちし、フィンの追っ手と戦いながら逃避行する逸話と酷似しています。

・トリスタンとイゾルデ

もともと独立した物語でしたが、アーサー王物語に組み込まれ、悲恋ロマンスとして有名になりました。円卓の騎士のひとり、トリスタンと、コーンウォールのマルク王の妻・イゾルデの悲恋を描いた物語。この物語も、ケルト神話のアルスター物語群に収められている「ノイシュとディアドラ」の悲恋話と、前述のランスロットとグィネヴィアの物語がベースになって作られたと言われています。

・魔法使いマーリン、魔女モルガン

アーサー王に仕える魔法使いマーリンのイメージやモデルは、古代ケルト土着信仰の最高僧・ドルイド(神官)だったと考えられています。ドルイドはシャーマン的な呪術を使う存在で、その名には「オークの賢者」という意味があります。「ハリー・ポッター」に登場する魔法使いの杖がオークで作られるのはこのためです。
また、不死の力をもつ聖剣エクスカリバーの鞘を奪い、アーサー王の死の原因を作った魔女モルガンも、ケルト神話のクー・フーリンとの因縁を持つ戦いの女神モリガンと同一視されることがあります。どちらも、英雄の死を暗示させる「ファム・ファタール(運命の女)」的な役割を果たしています。

・聖杯伝説

アーサー王物語の後半には、最後の晩餐で使用されたと言われる聖杯を探す旅物語が描かれています。実はこの聖杯は、キリスト教の聖遺物としての由来の他に、アイルランド神話に登場するダーナ族の4つの神器のひとつ、「ダグザの大釜」が原典と言われています。豊穣をつかさどるダーナ神族の最高神・ダグザの持つ大釜は、いくら食べても食料がなくならない食料庫であり、さらに死人を入れると蘇るという力を持っていて、永遠の命の象徴と考えられています。これがキリスト教の聖杯と融合し、アーサー王の聖杯伝説になったのです。

・西の楽園、アヴァロン

アーサー王は、物語の最後に瀕死の傷を負い、西の最果てにあると言われる楽園アヴァロンに運ばれていきます。ケルト神話でも、ダーナ族が人間との戦いに破れて移り住む西の最果てにある常若の国ティル・ナ・ノーグという楽園が登場し、アヴァロンと同一のものと言われています。アヴァロンは「林檎の島」という意味ですが、ティル・ナ・ノーグにもいくら食べてもなくならない林檎の樹があると伝えられています。




ケルト神話をモチーフにした創作物

<文学・映画>


「指輪物語」「ロード・オブ・ザ・リング」

→映画

「ハリー・ポッター」

→映画
→書籍

「アーサー王伝説」をテーマにした映画作品群

・エクスカリバー(1981年 監督ジョン・ブアマン)
・キング・アーサー(2004年 監督アントワーン・フークア)
・バトル・オブ・マジック 魔術師マーリンとアーサー王 (2015年 監督Marco van Belle)
・キング・アーサー (2017年 監督ガイ・リッチー)
・キング・アーサー 英雄転生 (2017年 監督ジャレッド・コーン)
・トランスフォーマー/最後の騎士王 (2017年 監督マイケル・ベイ)
・劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- (2020年 監督末澤慧、荒井和人)
などほか多数

<ゲーム>

「ファイナル・ファンタジー」シリーズ

シリーズを通して、武器や道具、モンスターなどの名前がケルト神話に由来するものが数多く登場します。ケルトに限らず、北欧神話、ギリシャ神話など多くの神話からの引用がありますが、このシリーズはサウンドトラックにケルト音楽を取り入れて世界観を演出した最初のゲーム作品でした。
作曲家の植松伸夫氏はアイルランド伝統音楽をベースに数多くの楽曲を作曲し、1991年には「ファイナル・ファンタジーⅣ~ケルティック・ムーン」という、実際にアイルランドのミュージシャンによってレコーディングされた画期的なアルバムも発売されました。

「Fate/Grand Order」

2015年に発売されたスマートフォン向けのゲーム作品。プレイヤーは、数々の英霊を「サーヴァント」として使役し戦うのですが、このサーヴァントとしてケルト神話の英雄たちがたくさん登場します。

・主なケルト神話からの登場人物

クー・フーリン
スカサハ
メイヴ
フィン
ディルムッド
アーサー
マーリン
ランスロット

<その他>

「ハロウィーン」

→識るケルト「ハロウィーン」

能「鷹姫」

1916年、日本の能の影響を受けてW.B.イェイツがケルト神話をベースに書いた戯曲「鷹の井戸」を原作として、1967年に日本の新作能として改作されました。外国人原作の逆輸入能として人気が高く、今も繰り返し演じられています。2017年にはケルトのコーラス・グループ「アヌーナ」を加えた新たな演出で「ケルティック能『鷹姫』」が上演され、大きな話題となりました。
→ケルティック能『鷹姫』