古代ケルトにはドルイドと呼ばれる神官が存在し、儀式やお告げを行っていたと考えられています。ケルトの信仰は、のちのキリスト教のような一神教ではなく、万物に神が宿るという日本の八百万信仰に近いものでした。特に太陽や大地に宿る神々を崇め、あらゆるものの中に霊的な存在を見出していたと考えられています。その霊魂は不滅のもとの考えられ、「輪廻転生」の思想も形成されました。ケルトの神話や伝承では、人間が様々な動物に生まれ変わったり、神や妖精と人間が結婚したり、魂が絶えず流動する思想が見られます。自然の大きな輪の中で、人や動物を含むあらゆるものの魂が絶えず流動しているという世界の捉え方がケルトの人たちの思想の特徴です。
ケルトの美術に描かれる渦巻文様や組紐文様は始まりも終わりもなく、一筆書きで輪廻するのが特徴で、この思想を反映していると考えられています。
ケルトの世界観では、神や妖精、人間の住んでいる世界が近く、その境界線が非常に曖昧であるという思想があります。
この思想がもっともよく現代に残っている例が「ハロウィーン」です。
ハロウィーンはもともと古代ケルトの大晦日(10/31)に行われる収穫祭であった「サウィン」が起源であると言われています。一年の終わりにこの世とあの世の境界線がなくなり、死者や異界の生き物がやってくる日と考えられていました。日本のお盆にもよく似た風習で、お化けに仮装するのは悪霊の目を欺くためだったと言われています。
アイルランド育ちの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が日本で「怪談」を書いたのも、人間と幽霊や妖怪が同じ世界に住んでいるという思想がとても身近なものだったからでしょう。
他のヨーロッパ文明と違い、ケルトは全ヨーロッパに広がっても王国や帝国を作らず、部族単位のコミュニティで活動をしていました。統治はドルイド(神官)が行いましたが、神話や神の声を届けるのが主な役割で、組織立った階級社会の色は弱いものでした。ピラミッド形の組織とは異なるこの特徴は、たとえばアーサー王物語に登場する円卓(上座も下座もない平等な組織)にも表れています。人間中心ではなく、自然の中にすべてが並列に存在するという思想が根底にあったからでしょう。
結果、軍事ではゲルマン人やローマ人に押される形となりましたが、この階級組織ではない特徴はアイルランドやケルト圏の平等を重んずる美徳に今も残っているように感じます。
パート分けなどもなく誰もが平等に参加できるセッション文化の音楽、老若男女が輪になって踊れるダンス、そして近年ではLGBTの婚姻が国民投票で認められるなど、ケルトの並列・平等の思想は今も社会の中に息づいています。