「ケルティック・クリスマス 2023」
12月2日 すみだトリフォニーホール ライヴ・リポート
文=松山晋也

 3階席までびっしりと埋まったすみだトリフォニー大ホールを見るのは久しぶりである。開演を待つ会場は、異様な熱気に包まれていた。なにしろ4年ぶりの〈ケルティック・クリスマス〉なのだ。音楽好きにとってはすっかり年の瀬の風物詩となったこの一大イヴェントをどれだけ多くの人々が待ち望んでいたことか。無数の電気キャンドルが美しくデコレイトされたステージ、そして満席の観客。それらを眺めているだけで、早くも私の胸は熱くなったのだった。

 この日のトップバッターはルナサ。数日前に京都のライヴハウス「磔磔」で新作ライヴ盤のための3夜連続公演を敢行したその勢いのままステージに飛び出してきた5人組は、フルートのケヴィン・クロフォードによる日本語混じりのひょうきんなMCでまずは笑いをとり、そのまま演奏に突入。新曲一つを含む計7曲をプレイしたが、彼らの持ち味であるロック的疾走感が特に発揮されたのは4曲目の「Morning Nightcap」と5曲目の新曲「Rock Road」だ。ユニゾンで豪快に突っ走るフィドル、イリアン・パイプス、ティン・ホイッスル/フルート。そのケツにムチを入れるようにグルーヴを煽り立てるパワフルなギターとベイス。エフェクターも多用するトレヴァー・ハッチンソンのエレクトリック・ダブルベイスはブンブン唸りながら、ドローンとバス・ドラムの役割を兼任し、このバンドならではのアンサンブルのユニークさを誇示する。また「Morning Nightcap」と最後の「Tinker's Frolics」では、今回初来日の若手アイリッシュ・ダンサー、デイヴィッド・ギーニーも登場して華麗なステップを披露。その凄まじいスピートと切れの良さは、過去に観たどんなアイリッシュ・ダンサーをも上回っていた。

 休憩後の後半はまずデイヴィッド・ギーニーのソロ・ダンスで会場を沸かせた後、6人組のダーヴィッシュが登場。都会派のルナサとは対照的に、スライゴー出身の彼らの演奏にはこってりとしたコクがあり、どこを切ってもアイリッシュ・トラッド・フォークならではの滋味がしたり落ちてくる。ジャガイモを掘る農夫のごつごつした手で抱きしめられている感じ、あるいは塩辛いアイリッシュ・シチューの味わい、とでも言うか。その演奏も歌もとことん温かく、やさしい。そして力強い。田舎のパブで期せずして出会った最良のセッションといった趣なわけだが、しかしさすがに40年以上のキャリアを誇るヴェテランだけあり、ケレン味のない演奏には風格があり、安定感抜群だ。とりわけ感銘を受けたのが、すぐれたバウロン奏者でもある紅一点キャシー・ジョーダンのヴォーカルである。朗々と響き渡るその歌声はキュートでありながら、アイルランドの大地そのものを実感させる。彼らはルナサ同様、計7曲を演奏したが、そのうち3曲がヴォーカル入りだった。ダブリナーズやデ・ダナンの名演でも知られる「Eileen Og」(デ・ダナン版の曲名は「The Pride Of Petravore」)も良かったが、白眉はやはり「The Galway Shawl」。男性陣5人も全員でコーラスを付けるこの名曲はアイルランドのコンサートでも大人気で、会場全体で大合唱になるという。その切ないメロディとソウルフルな歌声に思わず涙が溢れたのはきっと私だけではなかったはずだ。また、ラストのインスト曲「The Green Gowned Lass」でダンサーのデイヴィッド・ギーニーがステージ前面ではなくバンド後方のひな壇上でひときわ華々しく舞ったのもシメとしてはナイスな演出だった。

 そしてアンコールは、ルナサ+ダーヴィッシュの計11人が勢ぞろいしての大セッション。キャシー・ジョーダンによる見事なシャン・ノース(無伴奏のソロ・ヴォーカル曲)に続いてノリのいいインスト・チューンでヒートアップした後に聴かせてくれたのが、なんとポーグスの大ヒット曲「Fairytale of New York」だった。そう、このたった二日前の11月30日にポーグスのリーダーにして本曲の作者シェイン・マガウアンが亡くなったばかりだ。ルナサのケヴィン・クロフォードとキャシー・ジョーダンのデュエットとダンス(原曲ではシェインとカースティ・マッコールによる掛け合い)…4年ぶりの〈ケルティック・クリスマス〉の大団円として、そしてシェイン・マガウアンへの哀悼歌として、これほどふさわしい曲があるだろうか。私の中には再び、言葉にできない熱い感情がこみ上げてきたのだった。





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企画制作:プランクトン
後援:アイルランド大使館
助成:Culture Ireland
協力:THE MUSIC PLANT、 Irish Network Japan





→12/2公演動画掲載!!


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