アヌーナがイエーツ原作の《ケルティック能「鷹姫」》以来、能楽との共演に挑戦するという、アヌーナならではの公演です。アヌーナの歌は癒しや安らぎが感じられますがそれだけではないのです。その根底に人間の深い哀しみや生と死への洞察が感じられます。その表現は、クラシックや民族音楽など音楽の形態を超えた、魂の憂いともいうような震える息使いと言えるでしょう。
ギリシャ系アイルランド人、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「雪女」の超自然の世界、生と死が交錯する恐ろしくも、美しい世界を舞台で描こうという特別企画です。
能楽の権威、津村禮次郎師といにしえの音を現代に生かす笙の東野珠実、大鼓を迎えるこのパフォーマンスは一体どうなるでしょうか。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は出雲の国、松江で日本海の向こうに、父の国アイルランドの原風景とも言える、現世と異界が交錯する幻想の世界を見たのでしょう。この神秘を語る命への賛歌の物語「雪女」を、唯一無二のユニークなコーラス、アヌーナと、能舞と笙音楽、異文化芸術の融合により「自然と幽玄」を綴ります。どうぞ、ご期待ください!
プロデューサー 川島恵子
能とのコラボレーションは稀有で、摩訶不思議な体験です。
その卓越した幽玄な美と私の音楽との融合は、作曲家である私とアヌーナのシンガーたちにとってひとつの挑戦です。才能にあふれる能楽師たちと作品を創れることを、私たちはこの上なく光栄に思います。
マイケル・マクグリン(アヌーナ芸術監督)
アイルランドにいた子どもの頃、乳母キャサリンによる妖精譚の語りから怪談の世界へ誘われたラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。来日後、豪雪の松江で、後に妻となるセツの養祖父が、雪女に遭遇した体験を知り、日本の妖怪文化に魅惑されていきます。その後、「雪女」への関心はいっそう高まり、雪の精霊の幻想性、不思議さを日本の芸術はみごとに形象していることを絶賛。晩年、東京の家に出入りしていた庭師から聴いた多摩地方の民話をもとに異類婚姻をモチーフとする「雪女」の物語を創作し、代表作『怪談』に収めました。『怪談』には自然への畏怖、循環的生命観などケルトの水脈を垣間見ることもできます。KWAIDAN出版から120年、ハーン没後120年を迎える今年、日本とアイルランドの芸術がコラボする新たな「雪女」の誕生にときめきを覚えます。
超自然の物語には必ず一面の「真理」があり、その真理に対する人々の関心は科学万能の時代が来ても不変だと予見したハーン。人間中心主義の考え方に限界や矛盾を感じる現代こそ、怪談が必要とされているのかもしれません。
小泉凡(小泉八雲記念館館長、小泉八雲曾孫)