文&写真=松山晋也
南イタリアの伝統音楽/舞踊「タランテッラ」の人気バンド、カンツォニエーレ・グレカニコ・サレンティーノ(CGS)の初来日ツアー、最終日9月24日の公演(at 三鷹市公会堂光のホール)を観たのだが、いやー、すごかった。
タランテッラといえば、タンブレッロ(大型タンバリン)がリードする勇壮な高速2ビートが生み出すトランス感と躍動感がアンサンブルのキモである。CGSも例外ではない。しかし彼らのステージを観て私が特に感銘を受けたのは、それ以外の2点だった。
まずはヴォーカル・ワークの圧倒的素晴らしさ。CGSには主役級のシンガーがなんと3人もおり、それぞれ個性が際立っている。タンブレッロ奏者のジャンカルロ・パリャルンガ、女性のアレッシア・トンド、そしてブズーキ/ギター奏者のエマヌエーレ・リッチ。喩えると、野太く塩辛い歌声のジャンカルロは壮年の漁師、陰影に富み表情豊かなアレッシアは花売りの寡婦、地中海の眩い陽光のようなテノールを朗々と響かせるエマヌエーレは路上からバルコニーを見上げながら恋人に訴えかける名家の次男坊といったところか。声量も表現力も超ハイレヴェルな3者が曲ごとにタイプの異なる歌で技を競い合い、随時コーラスで交わるのだが、聴き手を一瞬でそれぞれの世界に引きずり込んでしまう。歌/声の多彩さと密度という点で、CGSに比肩するバンドはめったいにいないだろう。
そしてもう1点は、アレンジの巧みさ。あるいは、見せ方/聴かせ方=演出力の巧みさと言ってもいい。南イタリアにはタランテッラのバンド/音楽家は星の数ほどおり、私もたくさんの作品を観たり聴いたりしてきたが、彼らほど楽曲アレンジやステージ・パフォーマンスに気を配っている者はほとんどいない。たいていの場合、楽器の重ね方にしても楽曲展開にしてもシンプルであり、似たような曲調が続くので退屈になりがちなのだが、CGSは演奏者ひとりひとりの個性を生かしつつ、緩急のつけ方や音色の選び方を工夫して、ステージングを立体的に組み立てている。現在のリーダー、マウロ・ドゥランテがCGSを率いるようになったのは2007年で、メンバー交代を経た2010年の『Focu D'Amore』からは彼がアルバム・プロデュースも担当するようになったが、そのアルバムを境にCGSの音作りは一気に多彩になり、ポップ・ミュージックとしてのキャッチーさ、モダンさが際立つようになった。ローカルな伝統音楽の粋を極めつつも、田舎の伝統音楽バンドでなく世界で勝負できるポップ・グループへと脱皮していったのである。その変化を推進したのは、ロックをジャズやクラシックなど世界中の様々な音楽家たちと共演を重ねてきたマウロの音楽的視野の広さとモダンなセンスだったはずだ。今回の日本公演で確認できたステージ・パフォーマンスの巧みさもその成果である。
そして、CGSのステージには欠かせない美貌のダンサー、シルヴィア・ペッローネの華麗な舞いも鮮烈な印象を残した。タランテッラの旋回するダンスは「毒クモの舞い」などとも呼ばれるが、裸足で舞うシルヴィアの姿はさながら可憐な蝶のごとし。CGSは今、ワールド・ミュージック系のイタリアのバンドとしては最高の評価と人気を確立しているが、それもシルヴィアの美があってこそ、なのだろう。
タランテッラは南イタリアのローカルな民俗音楽である。日本でも一般的にはまだほとんど知られていない。しかしCGSは、それをグローバルなポップ・ミュージックへと昇華させていることを今回のステージで証明してくれた。ワールド・ミュージックの目指すべき姿のひとつの見本を私は確認できた気がしている。次の日本公演ではきっとマウロの日本語MCも更に上達していることだろう。
CGSは演奏者6人+ダンサーの計7人
エンディング
終演挨拶
タランテッラといえば、タンブレッロ(大型タンバリン)がリードする勇壮な高速2ビートが生み出すトランス感と躍動感がアンサンブルのキモである。CGSも例外ではない。しかし彼らのステージを観て私が特に感銘を受けたのは、それ以外の2点だった。
まずはヴォーカル・ワークの圧倒的素晴らしさ。CGSには主役級のシンガーがなんと3人もおり、それぞれ個性が際立っている。タンブレッロ奏者のジャンカルロ・パリャルンガ、女性のアレッシア・トンド、そしてブズーキ/ギター奏者のエマヌエーレ・リッチ。喩えると、野太く塩辛い歌声のジャンカルロは壮年の漁師、陰影に富み表情豊かなアレッシアは花売りの寡婦、地中海の眩い陽光のようなテノールを朗々と響かせるエマヌエーレは路上からバルコニーを見上げながら恋人に訴えかける名家の次男坊といったところか。声量も表現力も超ハイレヴェルな3者が曲ごとにタイプの異なる歌で技を競い合い、随時コーラスで交わるのだが、聴き手を一瞬でそれぞれの世界に引きずり込んでしまう。歌/声の多彩さと密度という点で、CGSに比肩するバンドはめったいにいないだろう。
そしてもう1点は、アレンジの巧みさ。あるいは、見せ方/聴かせ方=演出力の巧みさと言ってもいい。南イタリアにはタランテッラのバンド/音楽家は星の数ほどおり、私もたくさんの作品を観たり聴いたりしてきたが、彼らほど楽曲アレンジやステージ・パフォーマンスに気を配っている者はほとんどいない。たいていの場合、楽器の重ね方にしても楽曲展開にしてもシンプルであり、似たような曲調が続くので退屈になりがちなのだが、CGSは演奏者ひとりひとりの個性を生かしつつ、緩急のつけ方や音色の選び方を工夫して、ステージングを立体的に組み立てている。現在のリーダー、マウロ・ドゥランテがCGSを率いるようになったのは2007年で、メンバー交代を経た2010年の『Focu D'Amore』からは彼がアルバム・プロデュースも担当するようになったが、そのアルバムを境にCGSの音作りは一気に多彩になり、ポップ・ミュージックとしてのキャッチーさ、モダンさが際立つようになった。ローカルな伝統音楽の粋を極めつつも、田舎の伝統音楽バンドでなく世界で勝負できるポップ・グループへと脱皮していったのである。その変化を推進したのは、ロックをジャズやクラシックなど世界中の様々な音楽家たちと共演を重ねてきたマウロの音楽的視野の広さとモダンなセンスだったはずだ。今回の日本公演で確認できたステージ・パフォーマンスの巧みさもその成果である。
そして、CGSのステージには欠かせない美貌のダンサー、シルヴィア・ペッローネの華麗な舞いも鮮烈な印象を残した。タランテッラの旋回するダンスは「毒クモの舞い」などとも呼ばれるが、裸足で舞うシルヴィアの姿はさながら可憐な蝶のごとし。CGSは今、ワールド・ミュージック系のイタリアのバンドとしては最高の評価と人気を確立しているが、それもシルヴィアの美があってこそ、なのだろう。
タランテッラは南イタリアのローカルな民俗音楽である。日本でも一般的にはまだほとんど知られていない。しかしCGSは、それをグローバルなポップ・ミュージックへと昇華させていることを今回のステージで証明してくれた。ワールド・ミュージックの目指すべき姿のひとつの見本を私は確認できた気がしている。次の日本公演ではきっとマウロの日本語MCも更に上達していることだろう。
CGSは演奏者6人+ダンサーの計7人
エンディング
終演挨拶
2023.09.26 掲載
企画・制作:プランクトン
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館