ケルティック・クリスマス2025 公演レポート

ケルティック・クリスマス 2025

2025/12/6[土]
すみだトリフォニーホール

開場16:30/開演17:15
Cast
  • シャロン・シャノン with ジム・マレー、キリアン・シャノン
  • リアム・オ・メンリィ
  • ザ・ステップクルー・トップ3 with ダン・ステイシー
    • キャラ・バトラー
    • ジョン・ピラツキ
    • ネイサン・ピラツキ
    • ダン・ステイシー
  • クレア・サンズ
  • 特別ゲスト:ポール・ブレイディ

セットリスト

    Liam Ó Maonlaí set(25min)
  1. Urchnoc Chein Mhic Cainte
  2. Liam +Clare(Fiddle)
  3. Liam +Clare(Guitar)
  4. Sadhbh Ni Bhruinneallaigh (4Dancers)
  5. Stand Beside Me
    Paul Brady Set(25min)
  1. Money to burn
  2. Harvest Time
  3. Blue World
  4. Island
  5. Crazy Dreams
  6. Lake of Ponchartrain (Guitar3) (+ Liam: Pf)

    The Stepcrew Top 3 with Dan Stacy(5min)
  1. Women of Ireland Jon fiddle 〜4 dancers
    Sharon Shannon set (40min)
  1. Daddy Shannon's Jig
  2. The Merry Widow (Waltz)
  3. Moondance +REEL(Solo:Nathan&Dan)(with Liam)
  4. Cavan Potholes (with Liam)
  5. Blackbird(with Liam)
  6. James Brown's March + Mouth of Tobique (with Liam)
  7. Phil Cunninghams's set Phil (with4 Dancers+Liam)

    Encore
  1. Galway Girl(Paul:Guitar)
  2. Home of Donegal (Paul:Whistle & Liam)
  3. Music for a Found Harmonium (ALL)

Photo by 石田昌隆
公演レポート1 公演レポート2 公演写真

公演レポート

文・写真:松山晋也/Shinya MATSUYAMA

  ケルクリ、今年も素晴らしかった。いや、今年は特に、か。シャロン・シャノンたちをバックにリアム・オ・メンリィとポール・ブレイディが「The Home Of Donegal」を掛け合いで歌うアンコールではもう涙が止まらなくなってしまい…。
 ケルト/アイリッシュものはあまりにも聴きすぎて、正直、もう飽きたと感じることもたまにあるのだが、こういうのを観せられると、やっぱりアイリッシュは最高だなと心の底から感動してしまう。

 いつも通り、すみだトリフォニーホールで開催された今回のケルクリのラインナップはシャロン・シャノン、リアム・オ・メンリィ、アイリッシュ・ダンサー(カナダのザ・ステップクルー・トップ3+ダン・ステイシー)、そして特別ゲストのポール・ブレイディとクレア・サンズという豪華陣容。このキャスティングだけでもう成功間違いなしだったわけだが、今回は特に見せ方、聴かせ方が上手かったと思う。各人の持ち時間、組み合わせ、演目など、非常にバランスの良いステージ構成で、一瞬の中だるみもなく最初から最後までずっとスリリングだった。そういう意味では、細部までとことんこだわりぬくプロデューサー(川島恵子さん)の情熱の勝利だっとも言える。

 オープニングに登場したリアム・オ・メンリィは、常に一切のコントロールを嫌う出たとこ勝負の野人であり、そこがまた彼の魅力なのだが、それ故、時に観客を置き去りにしてしまう危険もある。特にピアノの弾き語りの場合は似たような曲調の歌を延々とやったりして。しかし今回は、オープニングでソウルフルな典型的リアム節をたっぷり披露した後、すぐに特別ゲストのクレア・サンズが加わってリアムの弾き語りにフィドル/ギターと歌でコラボを開始。また、リアムのシャン・ノース(古式のケルト歌唱)には途中からダンサーたちが登場し、華麗なアイリッシュ・ダンスに会場が沸騰。こういった起伏に富んだ構成のおかげで、伝統文化に深く根付いたソウル・シンガーとしてのリアムの魅力にいろんな角度から光が当たり、結果、ファンも更に増えたのではないかと思う。

 ちなみに特別参加のクレア・サンズに関しては、このコンサートを観るまで私は何も知識がなかったのだが、フィドルもギターも非常に上手いだけでなく、力強いヴォーカルがとんでもなく素晴らしく、唸ってしまった。サンズというファミリー・ネームで「もしかしたら」と思い、終演後に本人に訊いてみると、やはりサンズ・ファミリー(アイルランドの有名なトラディショナル・フォーク一族)の末裔なのだった。

 前半2番手には、名実ともにアイルランドを代表する名シンガー・ソングライターのポール・ブレイディが登場し、「The Island」や「Crazy Dreams」など名曲を立て続けに披露。何の演出もない生ギターとピアノだけのごくシンプルな弾き語りだが、圧倒的な歌唱力と貫禄だけで一瞬にして場を制してしまう。ラストにはリアムが登場して2人で至高のトラッド・チューン「The Lake Of Pontchartrain」を歌い、ケルティック・ソウルの粋を堪能させてくれた。

 後半はまずステップクルー・トップ3のジョン・ピラツキが一人で登場し、ダンスではなくフィドル・ソロで映画『バリー・リンドン』の主題曲「Women Of Ireland」を披露。『バリー・リンドン』はステップ・クルーも長年共演したチーフタンズが初めてサントラを手掛けた映画(1975年)であり、その主題曲はチーフタンズの重要なライヴ・レパートリーでもあった。日本公演でも常にこの曲はパディ・モローニがティン・ホイッスルで演奏していたが、ジョンのこの演奏から、パディ・モローニ/チーフタンズに対するジョンの、そして制作陣の深い哀惜と感謝の情を感じ取った観客は少なくなかったと思う。

 ジョンの巧みなフィドル演奏とステップクルー・トップ3+ダン・ステイシーのダイナミックなダンス・パフォーマンスに続き、いよいよシャロン・シャノンが登場。今回のユニットはギターのジム・マレイ(来日公演は通算8回目!)とブズーキ/バンジョーのキリアン・シャノン(シャロンの甥っ子)というトリオ編成。シャロン・シャノンの演奏はコンサートやパブで数えきれないほど体験してきたが、いつ観ても変わらないのはそのパフォーマンスのチアフルさとピースフルさだ。圧倒的演奏技術とスピード感は野獣のようでありながら、そのキュートな笑顔は永遠の17才とでも言うべき輝きと希望に満ち溢れている。すべてを肯定し浄化してしまう絶対的イノセンスが会場全体を包み込み、誰もを幸せな気持ちにさせてしまう。このポジティヴなヴァイブレイションこそがシャロンの最大の魅力であり、また才能でもあろう。アイリッシュ・ミュージックとは前を向いて生きること、生命の鼓動そのものに他ならない。シャロンのステージを観ながら、私は改めてそう思った。

 終盤にリアムやステップクルー・トップ3+ダン・ステイシーも加わったシャロン・シャノンのステージが終わり、アンコールの1曲目に披露されたのは、縁の下の力持ちジム・マレイが珍しくヴォーカルをとった「The Galway Girl」。スティーヴ・アールがシャロンのために書き、シャロン・シャノン&フレンズ名義の名盤『The Diamond Mountain Sessions』(2000年)に収録されたカントリー・タッチの大人気曲だ。

そして続いたのが、待ってましたの「The Home Of Donegal」。ポール・ブレディがティン・ホイッスルでイントロを吹き出した瞬間に会場のトラッド・フォーク・ファンから大きな歓声と拍手が沸き上がった。ポールのギター弾き語りを受けてピアノの弾き語りで応ずるのはもちろんリアム。そして、交互に歌う2人を一丸となってバックアップする他出演者たち……ケルクリのハイライトとして、これ以上に熱く、美しいシーンは望めないだろう。その感動を会場全体で分かち合う最後の打ち上げ花火としてシャロン・シャノンが高速でライヴの十八番「The Penguin」を演奏し、ステージは幕を閉じたのだった。


公演レポート

文:藤井真也

  ケルティック・クリスマスの魅力は、公演の最後に出演アーティスト全員が一緒に演奏するセッションにある、と以前記事で書いたことがある。
 しかし、それが最後のアンコールだけでなく、オープニングから次々にセッションが繰り広げられたとしたら? 2025年のケルティック・クリスマス、すみだトリフォニーホール公演は、それが実現したまさに貴重な公演になった。

 開演と同時に登場したのは、前夜に自らの特別公演を行ったリアム・オ・メンリィ。ピアノの前に座ると「ムー」とハミングで一音。観客にもハミングを求める。会場全体の音がぴたりとそろった瞬間、「Good!」と叫んで語るように歌い始めたのはアイルランドの古い伝統曲『アー・ノック・ヘーン・ヴィック・カンチャ』。舞台奥に張り巡らされた巨大な白い布には、リアムが描いた絵が次々に投影されて行く。揺れるように自由なメロディ。リアムのソウルフルな声と繊細なピアノ演奏の魅力が一段と際立ってくる。
 ここで最初のセッション。今回が初来日となるクレア・サンズがリアムに紹介されて登場。アイルランドの海と山が手染めで描かれた深いブルーのドレスが美しい。彼女の透明感のある美しい高音の歌声は、よく響くリアムの低音とのデュエットで、絶妙のハーモニーを聴かせてくれた。フィドルもうまくギターも巧みなクレア。また聴きたくなるような爽やかで明るいセッションだった。
 続く『サイヴ・ニー・ブリネンリー』では、ステップクルー・トップ3 with ダン・ステイシーのメンバーが軽やかなステップでリアムとセッション。
 最後を飾ったのは、彼のソロで『スタンド・ビサイズ・ミー』。祈りのようにも聞こえる低音のボーカル。ソウルフルな歌の魅力をたっぷりと聴かせてリアムのパートは終了した。

 続いて登場したのは、アイルランドのレジェンド、シンガー&ソングライターのポール・ブレイディ。たった一人でステージに登場した瞬間に、客席からものすごい拍手が巻き起こった。
 ギター一本で歌い出したのは『マネー・トゥ・バーン』。ロックなメロディを歌うソウルフルなボーカルに、会場のテンションは一気にアップ。『ハーベスト・タイム』、『ブルー・ワールド』、『アイランド』、『クレイジー・ドリームス』と、フォークなバラードからロックまで、ギターを替えながらソロで次々に歌ったところで、再びリアムが登場、この一夜限りのポールとリアムの贅沢なセッションが実現! 歌うのは、ポールを代表する『レイクス・オブ・ポンチャートレイン』。息のあったギターとピアノの演奏に乗せて二人が歌うこの名曲。この日の観客にとって、まさにサプライズなプレゼントになった。

 コンサート後半は、ステップクルー・トップ3 withダン・ステイシーから。フィドルを持って登場したジョン・ピラツキが日本語で挨拶。「チーフタンズ、シッテル? パディ・モローニ、シッテル?」と言って弾き始めたのは、チーフタンズが世界的にブレイクするきっかけとなった『アイルランドの女たち』。チーフタンズ来日公演ではキャラ・バトラーをはじめダンサーとして何度も参加している彼らならではの、天国のパディに捧げるこの選曲と演奏には思わずグッとくる。
 さらにそこから繰り広げられる4人のダンス。鮮やかな高速ステップと全身を使ったオタワヴァレースタイルのダンスに会場は大興奮!

 そしてお待ちかね、シャロン・シャノン登場。真っ赤なスパンコールが輝く半袖のブラウスに黒のスカート、やはりスパンコールが輝くブーツという華やかなコスチューム。今回はジム・マレーのギター、シャロンの甥、キリアン・シャノンのバンジョーというトリオ編成。『ダディズ・ジグ』の軽快なメロディが始まった瞬間、ホール全体の空気がパッと明るくなったよう。背景にはアイルランドの美しい森や湖の映像が投影されて、旋律の一音一音が楽しさを運んでくるシャロンならではの演奏に観客の表情も一気に笑顔になっていく。
 続いてはレハールの喜歌劇『メリー・ウィドー』から有名なワルツ。そのゆったりとした美しいメロディに乗って舞台に踊りながら現れたのは、リアム・オ・メンリィとキャラ・バトラー。長身二人の優雅なダンスでの参加はこれもまたセッション。リアムが履いていたのはなんと下駄だった!
 『ムーンダンス』からはリアムがピアノで参加。長年シャロンと数々の共演を重ねてきたリアム。セッション、というよりほとんどメンバー同様の絶妙なピアノでシャロンの演奏を支える。後半のリールからはシャロンのダンサブルなメロディに、ダンとネイサンが高速ステップで競演!
 ドーナル・ラニーの作曲、と紹介して始まった『キャヴァン・ポットホウルズ』では、シャロンのアコーディオンとリアムのピアノのサポートで、キリアンが素晴らしいバンジョーのソロを披露。さらにリアムがソウルフルなボーカルで美しいメロディを歌い上げた。
 『ブラックバード』、『ジェームズ・ブラウンズ・マーチ/マウス・オブ・トビック』と、シャロンとリアムのセッションが続き、『フィル・カニンガムズ・セット』へ突入。シャロンのアコーディオンが生み出すスピード感あふれるリールの鮮やかなメロディがホールを駆け巡る。リアムはバウロンを演奏、4人のダンサーたちもメロディに乗って多彩なステップを繰り広げる。もちろん観客も熱い手拍子でパフォーマンスを盛り上げる。ダンスチューンの楽しさを十二分に伝えて熱狂のうちに本編が終了。まさにハッピーなエンディングを迎えたが、当然、これだけでは終わらない!

 大拍手のアンコールに応えて、今日出演した全員が次々に舞台に登場。ポールのギター、リアムのピアノ、シャロンのアコーディオンに、クレアとダンのフィドルも加わって、まさにここからがアーティスト全員によるセッションの本番だ。
 そしてギターのジムが歌いはじめたのは、シャロンを代表する名曲『ゴールウェイ・ガール』。観客も一緒になってサビの部分は大合唱に!
 続いてポールのティンホイッスルのメロディから始まったのが『ホーム・オブ・ドニゴール』。最初のボーカルはポール。それがリアムに引き継がれるという贅沢なリレー。これもまた、この一夜限りのセッションならではのプレゼント。
 そしてアンコールの最後を飾ったのは『ミュージック・フォー・ア・ファウンド・ハルモニウム』。様々なアーティストの演奏で知られるミニマル・フォーク・ミュージックの名曲だ。ミュージシャンもダンサーも、シンプルなメロディが高速で繰り返される中、どんどんパフォーマンスが熱くなって最高の盛り上がりに。優れたアーティストによるセッションの楽しさを余すところなく伝えてくれた2025年のケルティック・クリスマス。ケルクリの歴史の中でも、特筆すべき一夜になった。


公演写真

写真:石田昌隆/Masataka Ishida

主催:プランクトン 共催:すみだトリフォニーホール
制作協力:THE MUSIC PLANT
後援:駐日アイルランド大使館
協力:Irish Network Japan、CCÉ Japan

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