美しい物語が例外なくそうであるように、モリアーティの音楽もまた度重なる偶然と運命のいたずらから生まれた。
そのことは、床のきしむ古びたフォークキャバレーから抜け出たような音楽を耳にすれば想像に難くない。往時の香りを漂わせた歌姫の力強く深遠なボーカルを中心に、アコースティックのごつごつと飾り気のない音色が思いがけないメロディを紡ぐ。

モリアーティの音楽は遙かなる先祖の存在に満ち満ちている。アメリカ&アイルランドフォーク、合衆国南部の片田舎のブルース、ほど良く埃をかぶったカントリー、しかもクルト・ワイルに不思議なほどよく似たドイツ人亡命者の亡霊の気配さえ感じさせる。(訳注:クルト・ワイル(1900-1950) ドイツ生まれの米国の作曲家。作品『三文オペラ』。)