山中千尋 パリ公演 ライヴ・レポート
30 Apr. 2012@ Sunset/Sunside(パリ,フランス)

2012/4/30、パリの由緒あるJAZZクラブSunset/Sunsideにて、山中千尋のヨーロッパ・ツアー"Reminiscence Spring Tour 2012"を締めくくるコンサートが行われた。

クラブは上下階に別れており、山中のコンサートは上階の"Sunside"。まだ『レミニセンス』がヨーロッパでリリースされてから1週間足らずであったにも関わらず、場内は本物のJAZZを求める地元のJAZZファンでごった返していた。100人程度の小さなスペースだが、イスはすべて埋め尽くされ、後方には立ち見客も多数。21:30過ぎ、満員御礼で封鎖寸前の導線を通り、山中千尋トリオが登場。この日のコンサートはBass:Mauro Gargano、Drums:Miki Salgarelloというイタリア・ツアーからの不動メンバーで行われた。

最近のコンサートでは定番のスターターとなっている『レミニセンス』収録の"She did it, again"からスタート。登場した瞬間は、「日本から小さくて可愛らしいピアニストが来たなぁ」くらいに思っていた観客も多かっただろうが、いきなりのスピード感とダイナミズム溢れる演奏に会場全体が一気に引き込まれるのがわかった。後方からその様子を見ていたこちらからすれば、まさに「She did it, again!(彼女、またやってくれた!)」という思いだった。続けて"Take Five"、"星に願いを"と誰もが知っている名曲を山中のアレンジ能力を存分に伝える演奏で披露し、観客の心を確実に掴んでいく。震災直後に書いたという美しいオリジナル曲"It was a beautiful 8 minutes of my life"を挟んで、これも『レミニセンス』収録、カーペンターズでお馴染みのバカラック作の名曲"Close to you"で第一部は終了。

第二部はより勢いを増し、自作曲にして代表曲といえる"Living without Friday"からスタート。これも山中ならではのダイナミックかつパワフルな演奏が堪能できる一曲で、再び会場の空気をあっという間に自分のものにしてしまう。続けてこれも自作曲"Antonio's Joke"では、軽やかなタッチの中によりノスタルジックなメロディを聞かせる。この曲や"Forever Begins"の表題曲を聴くと、個人的に70年代以降のDuke Jordanを思い出す。彼女が日本人にも受け入れられる優れたコンポーザーであることを如実に示す楽曲であると思う。続いてはデューク・エリントンの"In a Mellow Tone"と、クライズラー作曲のクラシック・ヴァイオリンの名曲"Liebesleid"。前者はよりブルース色を増し、後者はよりハード・バップ的に。どちらも原曲から大きく逸脱しつつも本質を保ち、さらに独自の解釈を加えたアレンジが見事だった。
本来ここで第二部が終わりだったのだが、鳴り止まない拍手に急遽アンコールとして"2:30 Rag"を演奏。由緒あるJAZZクラブの、耳の肥えた観客達から盛大な拍手喝采を受け、山中のパリ公演は幕を閉じた。

・・・かに思えたのだが、なんと第三部を行うとの知らせが! 実はもともと3セット制だったのだが、第二部終了の時点で二時間をオーバーしすでに時刻は23時半を回っている。観客の一部は公演が終了したものと思い帰ってしまったが、余韻に浸っていた観客は第三部の知らせに狂喜乱舞。
山中は登場するや、戯れにベース・ポジションに着いて自分よりはるかに大きなコントラバスをお茶目に爪弾く。会場には最後まで残った観客とのアットホームな雰囲気がすでに生まれていた。

第三部は『レミニセンス』の冒頭を飾る自作曲"Rain, Rain and Rain"からスタート。セロニアス・モンクを思わせるどこか解決をみない和声と展開、それでいてしっかりとした耳に残るメロディとポップさを持つこの楽曲は彼女の新境地と言える。続いてアルド・ロマーノの"La Samba Des Prophetes"、タンゴの名曲"Take Me In Your Arms"とラテン・ヨーロピアンな楽曲でフランスの聴衆を大いに喜ばせ、ラストは十八番の"八木節"。日本の、群馬の民謡を斬新に解釈したアレンジで、見事ヨーロッパの聴衆の心にまでその鼓動を響かせた。

演奏力、アレンジ能力、作曲能力、そして引き出しの多さなど、山中千尋の魅力をたっぷりと堪能できた3時間だった。「早く日本のコンサート・ホールで見てみたい」という想いがより一層強まったパリの一夜だった。

最後に、この日山中の演奏を聴きに会場に来ていたフランス音楽界の鬼才:ヴァンサン・セガールからのコメントを。

「Chihiroは素晴らしいピアニストだ。(Close to youを聴いて)僕もバカラックは好きだけど、彼女の解釈は実に見事だった。こんなにバカラックを理解した演奏は滅多に聴けない。それでいて彼女のオリジナリティや個性もある。それと、Chihiroはインプロヴィゼーション(即興のソロ・パート)も見事だ。最近のピアニストには、やたらとアグレッシブに弾きたがるソロが流行っているけど、彼女はテクニックだけではなくとてもエモーショナルで美しい。自分を表現すると同時にジャズをよく理解して、盛り上げ方をわかっている。自作曲も素晴らしいね。とても才能のあるコンポーザーだと思う。こういうクラブで聴くのもいいけど、次はもっといい環境で聴いてみたいな。この秋日本でコンサート・ホール・ツアーをするのはとてもいいと思う。彼女の素晴らしさがオーディエンスに最大限に伝わるからね!」(ヴァンサン・セガール談)


山中千尋 プロフィール&公演日程


30 Apr. 2012@ Sunset/Sunside(パリ)

〈山中千尋トリオ セットリスト〉

1st set
1. She Did It, Again
2. Take Five
3. When You Wish Upon a Star (星に願いを)
4. It Was a Beautiful 8 minutes of My Life
5. (They Long to Be) Close to You

2nd set
1. Living Without Friday
2. Antonio's Joke
3. In a Mellow Tone
4. Liebesleid
en. 2:30 Rag

3rd set
1. Rain, Rain and Rain
2. La Samba Des Prophetes
3. Take Me in Your Arms
4. Yagibushii (八木節)


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