ルーマニアのクレジャニという寒村から登場した“義賊楽団”タラフ･ドゥ･ハイドゥークス､マケドニアきってのブラスバンド､コチャニ･オーケスター､そして“マケドニアの美空ひばり”エスマ。昨今世界的に注目を集めているジプシー音楽の中でも､現在考えうるおそらく最高のライヴ･キャスティングが､遠く離れたこの日本で実現することの不思議と幸福。
　昨年末､僕はブカレストでタラフとコチャニのジョイント･コンサートを体験したのだが､あの混乱と興奮をどう表現すればいいのだろうか。それはタラフのニュー･アルバム『バンド･オブ･ジプシー』のためのセッションだったのだが､あの激突を､日本にいながらにして再び観れるとは思ってもいなかった。タラフは昨年のアルタン祭りでも､むき出しの獣性で観客を驚愕させたわけだが､今度はコチャニも一緒である。火に油というか､飛んで火に入る夏の虫というか（ちょっと違うか）､とにかく1＋1はけっして2じゃなく､5かもしれないし10になるかもしれない。なにしろ制御不能予測不可な人たちだから。
　エスマの来日は､タラフ＆コチャニとはちょっと時期がずれるわけだが､これはまたこれでエグすぎる。大衆芸能の世界で40年もトップの座を走り続けてきた者ならではのツラがまえと柔軟にして強靭なコブシは､亡くなった三波春夫先生にも体験していただきたかった。バルカン･ジプシーとしての誇りに満ちた大衆芸能ど真ん中な演歌は､きっと我々のやわなハートをグリグリと塩もみしてくれるはずだ。　

松山 晋也