PRODUCTION NOTE

ホルンを拾うマリウス少年は実在の少年?
この映画はドキュメンタリーだが、少年マリウスの場面はファンタジーのように描かれている。マリウスは実在の人物で、チォカリーアのメンバーのイオンの一番下の息子で、当時14歳。楽器を練習してミュージシャンになること、チォカリーアに入ることを夢見ている少年だ。監督は、イオンの家に滞在中、マリウスと友達になり、彼のキャラクターに惹かれて、この少年を映画の筋の一つの骨格にしようと考えついた。
実は撮影にあたって、一番悩んだのはファーストシーン。監督は15通りもの始まり方を考えた。そのうちの1つは、吹雪のシーンで始めるというアイデアでなかなか気に入っていた。しかし、考えた末に、マリウスと湖のシーンに決断。その場面はドキュメンタリーではないが、実際に起こりうる事を創作し再現したと監督は言う。マリウスは、映画の中で希望を象徴するキャラクター。音楽文化が次の世代に続いていくという希望、「やれば出来る!」というより良い暮らしへの希望、そして特別な存在ゆえに敬われたいというジプシーの人々の永遠の希望をあらわす。マリウスがホルンを拾う湖には時々本当に楽器が捨てられていて、実際に子供が拾ったりする。ちなみに修理のゴゴイも実在の人物で、ミュージシャンは皆、修理はゴゴイに頼む。村になくてはならない存在である。

半年間を費やした編集作業
撮影した内容は豊富で、映像はどれも魅力的だった。そのためかえって編集はひと苦労。監督はまず、バンドの歴史を語るべき、どこからやってきて、どうやってグループが成立したかを伝えるべきだと考えた。そして40の短いモティーフにまとめると、最初に、バンドの偶然で幸運な誕生を導く出来事、マネージャーのヘンリーたちが村に辿り着いて彼らに出会う流れをつくった。次は、ロード・ムーヴィーのパート。3番目にはドイツ人のクレイジーな男達の関わり、最後はマリウスに象徴した希望のストーリー。これら4つのラインをつなげていった。そして、最も重要な音楽そのものを縦糸にして。編集は当初の予定の3ヶ月から、その倍の半年もかかってしまった。

映画から生まれたロマンス!
監督は当初、映画の中に、素敵なジプシー娘がマネージャーのヘンリーと恋に落ちるというファンタジックなエピソードを入れようと思っていたが、それはうまくいかなかった(2人のマネージャーは共にジプシーの女性とすでに結婚していた)。そして結局は、監督がそのジプシー女性に恋してしまう。撮影後、二人は結婚。映画の外にも、ハッピーなエンディングのおまけつきとなった。