INTERVIEW

ラルフ・マルシャレック監督

エモーショナルに言えば、
人生とは、1曲の長い歌のようなものかもしれない
Q:あなたはジプシー文化人々の考え方へのどんなところに魅了されるのですか。
A:メランコリーな感覚、かな。「泣く」「悲しい」という意味ではなくて、望みをなくしているんだけれど、でも望みを持っている・・・そんな感情。ジプシーは常に、「生と死」という感情を身近に持っているんだ。若い人でも命は突如なくなる、反対に、突然運が向くこともあるかもしれない、金持ちになったり成功したり、突然死ぬこともある。彼らは、神から授かった運命を信じている。ファタリズム、運命主義者なんだ。命はミラクルでマジックだと思っている。だからあまり将来のことは考えない。むしろ、日々のこと、目の前のことに関心が向く。
Q:では、努力して運命を変えていこうという気もあまりないのですか。
A:明日、死ぬかもしれない、という思いがいつもどこかにあるからね。お金もずっと持ってはいられないものだ。だから使うし、あげてしまったりする。
Q:あなたのいうメランコリー・フィーリングというのはこれらに繋がっているのですか。
A:そう、運命は自分の手中にあるのではない、コントロールできるものではない、奪われてしまうもの、という考え方、その感情だ。一方で、自由奔放で人生の大きな喜びがある。人生を楽しむのが最高にうまい。喜びに満ちている。このコントラストが僕をものすごく惹き付ける。これがジプシーらしさだと思う。彼らはテンプリメント(瞬時)だ。今、哀しんでいるかと思うと、瞬時に最高に幸せになる。
Q:ジプシー社会の魅力と弊害は何だと思いますか。
A:ジプシーの社会では、親類関係、家族のつながりが大変重んじられる。彼らは4世代が共に同じ屋根の下に暮らす。驚くほど強いきずなを持ち、彼ら自身の言語で話し、書き言葉を持たず口承のみで受け継がれる。貧しくとも、機会さえあればいつでも人生の喜びを表現し、未来の事は気にせず、その瞬間を楽しむ事が出来る。また、素晴らしいもてなしの心を持ち、客にはパンの最後の一片まで惜しみなく与える。金(ゴールド)やお金が好きで、金持ちになる事が望む一方、金を軽蔑し、窓から投げ捨てたりもすることもある。ジプシーは、我々にはとても無秩序で統制が取れていないように見える。我々の契約や約束、同意による社会システムに比べると、彼らは時に信用しにくい場合がある。しかし、それは彼らの価値観のシステムが違うからに過ぎないんだ。
Q:この作品であなたが最も伝えたかったことは何ですか。
A:社会的に言えば、人類の豊かさとは様々な異なる文化の存在にあるということ。それは守られるべきである、ということ。しかもそれは、文化間の対話によってこそ保護されることが可能だということ。エモーショナルに言えば、人生とは、1曲の長い歌のようなものかもしれない、ということ。


ファンファーレ・チォカリーア・マネージャー:
ヘンリー・エルンスト

24時間のフルタイム・エンターテイナーなんだ
Q:チォカリーアの人々のどんなところにいちばんの魅力を感じますか。
A:熱意(Enthusiasm)。女性にも、音楽にも、何に対しても。この瞬間、今という時間に、感情を表す仕方に情熱がある。とてもホット、熱い人たちだよ。「今、ビールが ほしい」ということにしてもね。
Q:ドイツ人と比べると、体温が高い?
A:彼らの方がリアクションが速い。ドイツ人はどう反応しようか考える(笑)。ジプシーたちは瞬間に反応する。ドイツ人が一つのパーティを計画しているうちに彼らは5つはやってる(笑)。
Q:監督とは映画について議論した点がありましたか。
A:ジプシーの日々の喜劇的な要素が沢山でるといいな、と助言した。ジプシーのミュージシャンをジョークにするという意味じゃなくて、彼らは日々の生活がコメディのようなんだ。彼らはいつも言うんだ。村でも、ツアーやってるときも、ビジネスの時も、どんな問題があっても「心配するな、僕らはコメディやってるんだから」と。毎日毎日、これが一種、彼らの哲学なんだ。「深刻になりすぎるな、気楽に考えよう。」と。「ギブ・ミー・ワン・ミリオン、百万くれ」と言う、が、100もらっただけでもOK。ジョークなんだ。ユーモアが彼らの哲学。彼らは物事を計画しない。例えば、我々なら心で思っていても表に出さないことがあるが、彼らは何でもオープンに見せる。悲しい気持ちも嬉しい気持ちも。次の瞬間には変わっている。まるでコメディみたいに。最初のうちは戸惑ったけど。でも7,8年間も一緒に仕事をしていると慣れた。最初のうちは、お金の事なんかで言い争ったりもしたけど、次の瞬間には全部オーケーになったりして、「ノープロブレム、ナイス・サン(いい天気〜)」途中「あれ、問題があったんだっけ?それとも、ないんだっけ?」と(笑)。
Q:それはどういうメンタリティなんでしょう?最初に怒っていて、次の瞬間には機嫌が直っている、どっちが本当?忘れてしまうのですか?
A:理屈じゃないんだ。どっちも真実なんだよ。彼らは自分自身を楽しませるエンターテイナーなんだ。観客の前にいるステージと自分自身の日常の生活との間にも変りはない。村でもバスやホテルでも同じ、24時間のフルタイム・エンターテイナーなんだ、彼ら自身の。村に行くと、ミュージシャンじゃなくても彼らはみんなエンターテイナーだ。表現のしかた、生活の仕方、すべて。1日をできる限り楽しくし、今をベストに生きようとする自身のエンターテイナーだ。


ファンファーレ・チォカリーア・マネージャー:
ヘルムート・ノイマン

ヘヴィ・パワーにぞっこん、惚れている
Q:チォカリーアと仕事をしていて難しいことは?
R:勿論、問題はいつもあるよ。何故ならジプシーだから(笑)。考え方が違う。ドイツ人はプランしたら、そのプランにのっとって行動する。だけど、ジプシーたちは昨日プランしても、今日の瞬間に生きているから忘れるし、気にもしない(笑)。
Q:このグループの仕事をしていて最も大きい喜びは?
R:最大で第一の喜びは、音楽!僕らはこの音楽のヘヴィ・パワーにぞっこん、惚れている。
10人のブラスと2人のパーカッションでこれだけの信じられないパワーがあるんだ。メンバーとの個人的ないい人間関係もあるね。
Q:ファンファーレを初めて聴いた時、他のなにか、ブラスバンドを想いました?
A:正直にいえば、ルーマニアのモルドヴァのブラスだとは思わなかったので、心底驚いた。ドイツのブラス、イングランドのブラス、フランスのストリートのブラス、セルビアやマセドニアのブラスなど色々知っていたが、こんなの聴いたことなかった。とっても驚いた。モルドヴァにこんなブラスがあるとも知らなかった。おかしいくらいに。


ファンファーレ・チォカリーア:
チマエ(tp, vo) 、ラドゥ(vo)

チォカリ−アが一番速くて、刺激的だよ。
Q:チォカリーアが1996年に結成されてから、現在で8年となりますが、その間、村での経済的な状況は変わりましたか。
チ:勿論、チォカリーアでツアーに行くようになってからは暮らしがよくなった。まず、家を建てることができた。
村全体の経済状況も良くなった。家を建てるには、大工さんが必要だし、そうすると、村の他の人々も仕事にありつけるわけだよ。お金がみんなのところに結局回っていって、みんなの暮らしが自然とよくなってきた。
Q:教会もできたんでしょ?
チ:3、4年前に建てた。
Q:はじめてのジプシーの教会ということですが、どういう意味ですか?
チ:ジプシーだけが住んでる村で、ジプシーだけがいく教会だから。
Q:ところで、村には何人住んで入るの?
チ:大体400人で、家が100軒。1軒に平均4人ぐらい住んでいる。約半数の200人が男、女が200人。うち、子供が半分かなあ。
Q:100人の男性のうち、どれくらいの人が楽器を演奏するの?
チ:80〜85%以上。
Q:チォカリーアで活動する前は、結婚式等冠婚葬祭で演奏していたのですか。
ラ:週に2、3回演奏するものもいれば、月に一回という人もいた。チャウシェスクの時代にはミュージシャンは職業ではなかった。工場へ行ったりしなきゃいけなかった。自分も木工機具の工場で働いていた。だけど、いつも演奏はしていた。
Q:チャウシェスクの後は?
チ:ラドゥもシューロも農夫だった。ポテトやにんじんを作っていた。
Q:女性は楽器をやらないのですか。
チ:だいたいは家にいて、楽器はやらない。女性にはトランペットは大変だから。歌ったり、ダンスはする。
Q:両親やお祖父さんや祖先はどこから?
チ:ずっと、ゼチェ・プラジーニだよ。
Q:ゼチェ・プラジーニはジプシーの人たちだけが住んでいるのですか?
チ:そう。普通は町があって、町のはずれの郊外にジプシーが住む一角があるんだけど、ゼチェ・プラジーニはジプシーだけ。すごく珍しい。モルドヴァの地域に、こういう村はここだけ。
Q:どうしてそうなったわけ?
チ:物語は昔にさかのぼる。何百年か200年位前。いつだかわからないが、ひとりのブルジョワが丘の上にいた何人かのジプシーに10のプラジーニ(ヘクタール)を与えた。ゼチェとは10のことなんだ。(ゼチェ・プラジーニ=10万平方メートル)
Q:どうしてブラスバンドが生まれたの?
ラ:それぐらい昔に既に演奏していたらしい。だけど、他の楽器もあった。バイオリン奏者もいた。
Q:他のジプシーブラスバンドとくらべて、ファンファーレ・チォカリーアの魅力は?
ラ:チォカリーアが一番速くて、刺激的だよ。リズムがシンプルでどの曲でも踊れる。変拍子じゃないんだ。アクター(演技者)としてもみな、才能を発揮する。


取材:2004年3月23日,24日,29日 ウイーン,ベルリンにて
聴き手:川島恵子(プランクトン)
協力:松山晋也/サラーム海上/吉本秀純/真保みゆき/斉木小太郎